パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

02.先進国が協調しての「強制的物価引き下げ政策」の実行を提案

 ここからは、現在のパンデミックを乗り切るアイデアを提示してみる。自分はこれを、世界中が協調しての「パンデミック恩赦」と呼ぶことにする。

 戦争、災害、飢饉、感染症の流行・・・ このような非常事態に陥った時、経済を自由競争市場に任せておくとロクなことにならない。それは歴史が証明していて、各国政府も充分承知している。放置すれば世界恐慌クラスの混乱になるだろう。なので今回のパンデミックでは、各国政府は出来る限りの金融緩和政策・財政出動を行っている。が、それは一時しのぎの回避策にすぎない。しかも自国第一主義で、国際的なバランスを欠いたやり方であることは否めない。

 世界中で金融緩和・財政出動が行われた結果、お金がジャブジャブとダブつき始めた。現在は、その余ったマネ-によって株価が買い支えられている。未曾有の経済危機に発展しそうなのに株価が上がり続けているのは、そういう理由だと思う。だが、ここから読み取れるのはもっと深刻なことだ。つまり資金力のある富裕層にとっては、今回の非常事態でさえ「さほどダメ-ジを受けていない」ということ。富裕層は安全なトレ-ディング・ル-ムで、涼しい顔で株の売買に勤しんでいる。それが株価上昇を支えていると言っても過言ではない。
 興味深いのは「お金ジャブジャブ」なのに急激なインフレ懸念がないこと。特に今回は各国政府が物価上昇を抑える圧力を強めていて、さらに生活必需品の供給を止めないように努力した。それが功を奏したようだ。株式は基本的にインフレ率に同調して値上がりするので、インフレに対する警戒感から株が買われている可能性もある。なので、株高を楽観視するのは軽率な判断だ。

 ただ、株価がこれほど上昇する余裕があるのなら、本来ならその一部を現金化し、その何割かは債務整理に使うとしても、残った金を直ちに労働市場に注入してやれば実体経済の疲弊は防げるはず。資本所得から労働所得への再分配を行えば、国民の税金である政府支出も少なく済んだはずだ。
 備蓄率が高く、財力もある先進国が発端となってインフレが起こることはないようだ。日本国内を見ても、全産業が完全停止した訳ではないし。だが、体力のない途上国は、今回の感染流行で壊滅的打撃を被り、社会不安に発展している。この時、社会不安が起こる真の原因はウィルスではない。

貧困層と富裕層の大きすぎる経済格差こそ、社会不安の真の原因だ。

 非常事態の度に、貧困層生存権を脅かされるほどの危機にさらされるので、社会がパニックになってしまうのだ。日本国内での被害も、富裕層から見れば「局所的」と捉えられるだろう。が、今回の緊急事態で大打撃を受けた産業がある一方、何の影響も受けなかった産業、逆に大儲けした産業もあり、二極化や格差が拡大するのは必至だ。
 この不公平感を是正するために、政府は様々な給付金・補助金を用意しているが、資本主義陣営は、一番重要な格差縮小については消極的だ。価格設定に問題はないという立場を変えようとしない。

 日本政府は、いまだに「緩やかなインフレ基調」にこだわっているが、現在の経済はグロ-バルに繋がっているので、一国の政策だけで日本経済を制御するのは困難だ。政策に注ぎ込んだ予算は、少なからず海外に漏れ出てしまう。
 緩やかなインフレ基調とは、国内においては「消費促進策」を意味する。物価高の未来よりも今の方が安い買い物ができるという理屈だ。一方、国外に対しては貨幣量の増加で円が入手し易い・・・ つまり「円安基調路線」を維持する政策と言える。
 日本政府が期待していたのは、外国からやって来る裕福な観光客によるインバウンドであるのはミエミエだ。キャッシュレス化を推進してきたのも外貨獲得が狙いだったはず。つまり、金持ち同士でカネを還流しようという魂胆。これは日本に限らず、西側諸国の大半に言えることだと思う。

 だが、これは既に充分な資金がある前提の消費促進策なので「持たざる者」に対しては無慈悲な景気対策だ。先進国が進める「適度のインフレ」は、人件費が安く資本力の弱い途上国を物価高によって苦しめ、経済格差を広げてしまう。例えば、先進国で受けられる高品質の医療サ-ビスは、途上国では料金が高すぎて受けられないのが実情だ。
 「インフレ経済政策」は、資本所得者(主に富裕層)に有利な政策で、富裕層による消費拡大が期待できる。さらにインフレによる国家の財政赤字縮小の効果も期待できる。そんな期待感から先進国の物価高は進行し、富裕層を甘やかす風潮が常態化した。
 その結果、先進国と途上国の物価にズレが生じ、そのズレは今も拡大している。見ようによっては、途上国の安い労働力を今後もずっと安いまま束縛するために意図的に作られたシステムのようにも見える。
 もしも西側諸国が、自国を民主国家と自負しているのなら、他国に対しても民主的に対応すべきと思うが、そうはなっていない。民主を保証しているのは自国民に限定している。残念ながら、それは日本も同じだ。

 今回のコロナ・ショックの根っ子に「格差拡大」の問題が絡んでいるのは明白なので是正が必要だ。それについては経済学者のピケティが「国際的な累進資本課税」を提唱している。所得ではなく「資本」に対する累進課税だが、大方が現実味のない「空想的アイデア」だと言っている。
 だが、ここで話を終わらす訳にはいかない。ピケティの提言は、コロナ・ショックが起きる前から言われていたもので、現在の格差縮小への要望は、以前にも増して緊急を要す事案になっているからだ。従来のバラマキ的支援では根本的な解決には繋がらない。
 とは言え、コロナ・ショックのような非常事態に陥ると、他国の面倒までみてやる余裕はなくなる。そこで、面倒をみるのではなく「足並みを揃える」ことに意識を集中するのだ。途上国は先進国の物価水準について行けず、良質の医療サ-ビスが高額すぎて受けられずにいる。これを可能にするために・・・

先進国およびハイパ-インフレに陥っている国の物価を、一定割合で強制的に下げる「強制的物価引き下げ」を提案。

 これこそ、自称「パンデミック恩赦」の主柱だ。GDP成長率がコロナ・ショックで -20%になるのなら、それを超える -30%にする。今まで1万円だったものが7千円で買えるようになるので、これは国内の低所得者にとっても助けになるだろう。
 途上国と先進国の格差を縮小するなら3割引でも足りないぐらいだが、それ以上物価を引き下げると「武力紛争」に発展しかねない。傲慢な先進国がギリギリ妥協できるレベルが、30%ぐらいだと自分は考えた。
 物価を下げるとは「通貨切り上げ」を意味する。この時、マネ-ストック(貨幣供給量)と利子率(金利)は現状維持とする。供給量を絞ると緊縮政策になってしまうので。先進国通貨を同率で切り上げるため、先進国同士の為替レ-トは変動しない。そして、何よりも推奨したいのが・・・
 「債権と土地(不動産)」も例外なく同率で値下げ。さらに「全公開株も同率値下げ」を実行。物価と連動した値下げなので「実質価値」は変えないが、貨幣量も変えないというトリックを使う。で、値下げによる損失を「各国の税収」と見なし、それを現金化して国民に還元。例えば、国民給付金に使うことで資本所得から労働所得への再分配を行う。

 物価が高すぎる先進国通貨の切り上げによって、途上国に貯蓄や投資のインセンティブが働き、それは途上国が自力資本で産業を興すきっかけになると思っている。「債権」「土地」の強制値下げについては富裕層から反発がありそうだが、物価と連動しているので「暴落」とは違うことを説明しつつ、貯蓄(内部留保)については不問とする条件にすれば、累進資本課税よりは反発も少ないだろう。問題は、富裕層の資金が貯蓄へ大移動しそうなところ・・・。
 徐々に物価を下げるとデフレの悪影響が出るので「ある日突然」物価を下げるのが肝だ。Xデ-に先進国の物価を強制的に引き下げる。その後しばらくはデフレにもインフレにも振れないように気を使った経済政策の実施が不可欠となる。
 特に重要なのが「買いだめ・買い占め・売り渋り」を禁止すること。要は独占・寡占の監視を厳にする。そうなると、潤沢な貯蓄を持て余している富裕層が土地の買い占めに走りそうなので、その辺の監視も必要だ。賃料が重くのしかかっている現状で、土地が高騰したら世界は大混乱に陥る。

 ところで、「債権」の値下げについては「全世界同時」に全ての債務を物価と連動して棒引きする。わざわざ断わらなくても債権の大半は先進国富裕層が握っているはず。-30%なら、100億円の借金が 70億円になる。これは債権者に一定割合の「債権放棄」を迫るものだが、物価と連動した処置だし、全世界を相手に抵抗できる勢力はいないだろう。大きな混乱は起きないと考える。
 債務を減少させることに関心を寄せる国は多いはず。それは先進国でも同じだ。例えば「インフレ税」に頼って財政赤字の債務価値を減少させる財政健全化計画だって、長い目で見れば債権者に一定割合の債権放棄を迫っているのと同じことだ。

 インフレを起こしている政府は、それだけ国民から税金を徴収しているのと同じことになる。これを「インフレ税」という。要するに、政府が貨幣を発行するからインフレが起きるという考え方。インフレによって国民が保有する貨幣価値が実質的に減少するので、価値の減少という形で政府は税金を取っていることになる。要するに、国民の貯蓄の価値が減少した分が、実は国の財政赤字の返済に充てられたことを意味する。
 インフレは国内の全貯蓄を均等に目減りさせるため、特に低所得者がダメ-ジを受ける。富裕層は貯蓄から株式に移動させるので、ほとんどダメ-ジを受けない。それどころか、株はインフレ率とほぼ同調して値上がりするため、逆に格差を拡大する方向に所得の再分配が起きてしまう。インフレには消費税と同様の「富の逆進性」があるのだ。アベノミクスは、インフレが進行する中で消費税増税を行った。これが格差拡大を助長したのは言うまでもない。
 なお、インフレ率が高くなるほどインフレ税の収入が高くなる訳ではない。インフレ税の収入はインフレ率と経済成長率の和に、実質貨幣残高を掛けたもの。インフレ率が高くなり過ぎると、実質貨幣残高が減少するので、逆にインフレ税の収入は減ってしまう。

 さて、「強制物価引き下げ」は、かなり乱暴な政策に思うかもしれないが、金本位制を放棄した時だって相当乱暴だった(1971年ドル・ショック)。それでも、ハイパ-インフレで債務帳消しを狙うのと比べれば、ずっと良心的だ。少なくとも、ピケティの「累進資本課税」よりも現実的でインフレ税の代替案とも言える政策だ。
 インフレ税では富裕層も貧困層も同率で負担を強いられるが、富裕層には資本所得への逃げ道がある。一方、物価・証券・土地の強制値下げは「富裕層の逃げ道を塞ぐ切札」となる。金銀価格も強制値下げする必要がありそうだ。
 課税を逃れてタックス・ヘイブンに富を隠匿する現実がある以上、資本課税をしたところで無意味だ。ならば、債権もろとも世界中の富の価値を強制値下げするしかない。こうやって途上国と「足並みを揃える」ことが、国内の低所得者の利益にも繋がり、それは社会に安定をもたらす。
 国家間の物価の不均衡こそが、社会不安の元凶だと自分は考える。東西冷戦後の内戦・紛争には必ず物価の不均衡が影響している。グロ-バル化の前に「物価格差」を縮小すべきだったのだ。が、資本主義陣営はそれをしなかった。それは資本主義陣営が利己主義を重視し民主主義を軽視したことが原因だ。そう考えると、ずっと物価高・株高政策を続けてきた「資本主義大国・米国」の責任は重いと思う。
 欧米諸国にとって、途上国への人道支援など、チップみたいなものと考えている節が見受けられる。そんな「上から目線」の施しが途上国の自立を妨げている。物価格差で途上国を束縛しておいて「施し」とか言っても、それは偽善以外の何物でもない。

 さて、債権の強制値下げは財政赤字を減少させるので、人口減少のような「右肩下がり」にマッチした経済政策へシフトするためのきっかけになる。右肩下がり経済にも対応できることが持続可能社会には必要だ。持続可能社会の実現にとって、借金は最大の障害となるのだ。実は、ここが一番重要。
 物価の強制引き下げによって、個人貯蓄や企業の内部留保の資産価値が相対的に上昇する。その内部留保を巣籠もり中の給与に回すことでコロナ禍を乗り切ろうという訳。自粛要請などにより、働けるのに働けない状況に陥る人が巷に溢れるので、彼らの救済措置として「物価引き下げ」は最適な政策と言えると思う。
 それによって今後、衣食住の全てが一定割引の金額で賄える。それならば自粛生活で収入が跡絶えた人も、貯金を切り崩しながらの生活をより長く継続できる。既に貯金を使い果たしてしまった人にとっても、今後の消費を物価引き下げ分だけ節約できる。今までより少ない金額で、今まで通りの生活が送れるなら誰だって大歓迎だ。

 これを実現するには生産活動を淀みなく続け、品不足にしない必要がある。品不足になったらインフレを止められないので、コロナ禍での生産活動の維持が一番の課題となる。だからこそ「実体経済」の強化が必要で、それを担う国民の救済が最重要課題となる。
 そして、人件費(賃金)も同様に下げる。ただし、各国の所得中央値以下の低所得者については現状維持とすべきだ。これは格差縮小のための政策なので。そこで・・・