パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

14.デフレよりインフレの方が消費喚起になる・・・とは限らない

 デフレになると物価が下がる。物価が下がれば当然、賃金水準も下がってくる。が、歴史的には賃金の方が物価よりも下げ幅が小さいケ-スがほとんどなので、実質的な所得は上がる。
 そうなる理由は、物価は短期間で変動するが賃金は年単位で更新されるため。また、むやみに賃下げをすると有能な労働者まで逃げ出してしまうため、賃金水準を下げることに抵抗も働く。

 逆にインフレになると、物価上昇に賃金水準が追いつかなくなることが多く「必要な物以外は売れない」状況になる。が、それは低所得者の話。富裕層は「今がチャンス」とばかりに金を使いまくる。
 また、インフレでは貯蓄より投資の方が有利になるので、富裕層はさらに資本所得を増大させる。これがGDP成長率を一気に押し上げる。このように二極化が進み、経済格差は増大する。
 社会の中で、苦しんでいる貧困層と、薔薇色の人生を謳歌する富裕層が一緒にいるというのは不公平感を強調する。これが治安を悪化させるのは言うまでもない。「インフレ経済」を継続させると社会不安を増大させるリスクがある訳。

 さて、富裕層に余裕があるとしても、欲しい物を買い尽くしてしまえば、一気に消費意欲は冷え込んでしまう。一生費やしても使い切れない財産が富裕層の手元に留め置かれたままとなり、経済の循環不全を招く。それこそが景気を冷え込ませる最大要因だ。
 これを回避するには「富裕層の入れ替え」を定期的に行うのが望ましいが、一度手にした利権を手放す人などいないので上手くいかない。
 かつては間接税(贅沢税)が累進課税の役割を担っていたが、今や消費税が間接税の代表になっている。消費税は逆進課税なので、格差を縮小する再分配の機能が税制から抜け落ちてしまっている。これが「世界標準」を鵜呑みにした結果だということを日本人は気付く必要がある。

 現在のインフレは、単なる「物不足」に由来するものではないので、結果として政策に反して物価下落が始まり、デフレに振れてしまう可能性もある。何度も言うが、市場がデフレに向かうのは「健全な経済」が自然にバランスを取った結果に過ぎない。
 デフレよりもインフレの方が消費喚起になるというのが経済学の通説だが、現実の経済は全然違っている。その理由は、富裕層の消費意欲が一時的であること、物価水準と賃金水準が変動する時間的スケ-ルにズレがあることが原因だ。
 要するに、経済学の通説には「時間軸」の概念が欠落していて、物価と賃金水準にズレが生じることについて「見ない振り」をしている。高学歴の学者が、これに気付かない訳がない。

 しかも、インフレになると預貯金が目減りするので、将来への不安感が増し、余計に貯蓄を増やそうとする。その分消費が冷え込む結果に繋がる。
 一般市民にとって一番の頼みの綱は、社会に貢献する労働によって得られる賃金収入だ。株式投資には理不尽なリスクがつきまとうし、富裕層と一般市民では、株式に対する「情報格差」もある。低所得者に投資を勧めて老後の資金を増やせというのは酷な話だ。