パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

21.インフレ経済政策とコミットメント(不言実行は卑怯ではない)

 インフレ経済政策とは、もちろん「アベノミクス」のこと(今後はスガノミクスになる?)。インフレでは次第に物価が上がっていくので、消費者からすると「待ち」は損、値上げ前に「買う」が吉と出る。
 が、既にそれ相応の資金が手元にないと、消費拡大に転じるのは無理な話。「買い」が吉なのは事実でも、それは既に資金的余裕がある前提での話にすぎない。もちろん、富裕層はすぐにその行動に移れる。

 特に長期保存が可能な商品は、買い占めておくと将来高値で転売できるので、そういう商品が一種の貨幣として取引されるようになる。物価上昇がコミットメントによって保証されるなら、倉庫に在庫を眠らせることなど大したコストではない。
 「コミットメント」とは、いわば国家主導で行われる「富裕層と国家の合法的インサイダ-取引」と言って良い。全世界に公言しているのだからインサイダ-取引には当たらないが、その情報を最大効果で有効活用できるのは、潤沢な資金によって常に先回りできる富裕層なのだ。
 資本主義は正確な未来予測を欲しがるものだ。それ故に「不言実行は卑怯、有言実行しろ」などというプロパガンダを発する。しかし「不言実行」とは、本来は・・・

人が見ていても、見ていなくても、黙って正しいことをする。

・・・という意味で使われる四字熟語だった。それが、いつの間にか資本主義社会の中で意味が歪曲されてしまった。最初に言い始めたのは格闘技の選手だった気もするが・・・。
 富裕層の購買意欲が旺盛になると、その消費額が巨額なこともあって、名目GDPを一気に押し上げる。金融政策が効く一番の原因はコレだ。帳簿上では確かに経済成長率は上昇する。しかし、その経済成長が全国民に波及しているかと問えば、大部分の国民は「実感が湧かない」と答えるだろう。
 なぜなら、富裕層の消費効果が全国民に波及する訳ではないからだ。しかも、先立つものが無い低所得者は生活必需品を消費するだけで手一杯で、値上げ前に「買い囲む」ことなど出来る筈もない。物価が上昇しても、それに合わせて労働賃金が上昇するのはずっと後の話になる。結局、インフレは市民の家計を圧迫するだけだ。

 「金持ち喧嘩せず」とか「衣食足りて礼節を知る」という言葉がある。物質面の充足があればこそ、礼節をわきまえる余裕も出来るし、他者にも寛容になれるという意味だ。今の日本を見ていると、イジメ、誹謗中傷、ハラスメント、ヘイトクライム等々、どうにもギスギスしていて宜しくない。
 裏返せば、治安の悪化は「衣食が足りてない人が大勢いる」ことを示唆している。人は一人では生きてゆけないから社会を作っていると考えれば、衣食が足りていない人が大勢いる社会は、明らかに不健全な社会だ。その不健全な社会が表向きでは「好景気」と呼ばれていたとすれば、不健全の原因が「格差拡大」にあるのは明白だ。

 現在の米国と日本のインフレ経済政策は、実体経済の成長率を無視した金融緩和政策によって維持されている。市中に大量放出されたマネ-を見込んで、投資家は大量の株を売買する。
 すると株価は、企業業績に関係無く、少なくともマネ-ストック上昇分は値上がりするというカラクリだ。つまり株高の裏には、余剰貨幣の大半が資本所得へ流れてしまい、労働所得者が取り残される現実がある。
 インフレで貨幣価値が減少し、貯蓄や債権が目減りする中での株価上昇は、企業や投資家に「濡れ手に粟」の利益をもたらす。これに名前を付けるとしたら「金融緩和便乗バブル」とでも呼ぼうか。コロナ禍での株高連続更新は、まさしくバブルといえる。

 しかし、実体経済の付加価値はほとんど増えていないのだ。労働者の賃金は会社の売上から支払われる。つまり、労働賃金は「実体経済の成長率」で決まるので、物価高にも関わらず労働所得は据え置かれることになりかねない。
 インフレ経済政策は、貧富の格差拡大を助長する政策であり、富裕層をさらに裕福に、貧困層をさらに貧乏にする。なぜなら政策を実行した時点で、最初に持っている資金量によって既に勝敗が決まっているからだ。

 資本所得者はコミットメントに乗っかって儲けているだけだ。これでは、努力した人が報われるべきという「資本主義」の理念に反している。努力に報いるための格差容認が骨抜きにされている訳。さらに、再分配への配慮が足りない上に、著しく公平性を欠いた政策と言わざるを得ない。
 そうならないために、雇用情勢を改善する政策を打ち出したりするが、最低賃金を上げる以外の案は出ないのが常だ。しかも最低賃金の上昇は雇用抑制に繋がるので、失業率の高止りを助長し、かえって逆効果になる。

 そして政府は、帳簿上の成長率で満足してしまい、新たな政策投入に踏み切る誘因が働かない。結局、雇用情勢に政府が介入できる余地はほとんどないのが実情だ。それが今回のコロナ禍で、より鮮明になった。
 政府がインフレ経済政策を実行すると決めたなら、企業側・投資側にも再分配に配慮した賃金体系に直すことを約束させないと、労働階級の疲弊を招くことになる。
 米国でトランプ政権が誕生したのも「白人労働者の疲弊や不満」が背景にあると言われている。トランプ陣営を単純に悪者扱いできない事情があるのも事実だ。ただ、トランプ政権には民主主義を破壊するリスクも内包していた。それが問題だった。

 健全な再分配を機能させるには、資本家・企業側の「自主的な協力」が不可欠だ。本来なら、株主が公平な賃金体系にするように、会社に圧力を掛けて欲しいところなんだけど、株主は配当(インカム・ゲイン)や上昇株の売買差益(キャピタル・ゲイン)しか興味がないらしい・・・。
 インフレ経済では「借金は得」になるので、無理な借金を重ねることでマネ-ゲ-ムに参加する者が後を絶たない。それは結果として、インフレ税で財政赤字を減少しようとした政府の思惑とは裏腹に、さらに借金を増やす危険性を孕んでいる。
 しかも、それらの債権は富裕層に握られている。搾取の連鎖は止まらない。この問題を是正する唯一の方法が「全世界の債務を一定割引する強制的債権放棄」だと考えた次第。Xデ-に全世界の債権(債務)を一時凍結し、債権価格の書き換えを行う。非常に乱暴なやり方なのは承知の上だ。

 経済活動の歴史は、常に労働者を変質させてきた。昔は大多数の「レイバ-(苛酷な肉体労働)」を必要とした。それが産業発展と共に、ブル-カラ-(肉体労働)と「ワ-カ-(ホワイトカラ-)」の構成に代わり、今では少数の「プレイヤ-」がワ-カ-、ブル-カラ-を従える構図になっている。
 今の経済システムを続けると、貧困層には全て餓死してもらって、代わりにロボットが代行する経済に移行するしかないと思われる。利己的合理性を肯定するなら、そうなるのが自然な未来感だ。そうなると、そんな未来に多様性を尊重する「民主主義」は存在するのか、非常に不安になる。
 現在の経済システムで生き残った者は、資本主義という価値観には適応しても、それが文化的に優秀かどうかは別問題の話だ。「資本主義DNA」が濃縮された人類は、他者を出し抜く以外に知性を発揮できるのか、はなはだ疑問だ。利己主義を追求した先にあるのは「獣と化した人類」の姿ではないのか?