パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

20.合理化・効率化の罠(エントロピ-と脳内回路と確証バイアス、そして総合知へ)

 資本主義は少数派を相手にしない。多数派(大衆)を相手にした方が儲かるからだ。そのため巨大資本は、大衆を管理しうる権力に執着する。一方、社会主義は「全体主義」を唱えて大衆を管理しようとする。どちらも大衆を一つの価値観へ誘導しようとする点においては大差ない。
 社会主義国であるはずの中国が、現在では資本主義色を強めているのに意外と違和感がないのは、全体主義と資本主義に親和性があるからだ。その親和性ゆえに、世界中の企業が中国(世界の工場)に依存し、超合理的な生産システムが地球上に出現した。

 資本主義陣営にとって、民主主義か社会主義かは、さほど重要ではない。むしろ民主主義の方が「効率化の阻害要因」として警戒されている。現在の秩序は合理化・効率化が達成される理想的状況なので、この秩序の破壊は絶対に阻止したい。
 そのため、常に先回りして秩序維持に努める。その先行投資は洒落にならないほど巨額なので、投資分の回収は失敗が許されなくなった。で、必死に利潤追求するという悪循環が始まった。
 だが、徹底した合理化には、いざリスクに直面した途端に甚大な被害が発生する危険がある。今回のパンデミックは、その典型と言えるだろう。

 地球環境は人間活動の利益のためにだけ存在している訳ではないので、効率化・合理化に走りすぎると思わぬ所からリスクが顔を出し、足元をすくわれる。単純化された価値観(資本主義とか)には常に重大なリスクが潜んでいて、それが「効率的な破滅」へ反転する可能性もあると覚えておくべきだ。
 人が考える効率化・合理化というのは、科学的には「エントロピ-を減少させる行為」に他ならない。エントロピ-は常に増大するのが宇宙の物理法則だ。空間に放たれた粒子は拡散し混ざりあい、均質化するのが自然の摂理だ。宇宙は引力と斥力がバランス良く配置された世界なのだ。

 生物は餌(エネルギ-)を求めて移動することでエントロピ-を減少させる、宇宙では希有の存在だ。生物には引力・斥力に逆らって移動する能力がある(正確には引力・斥力を利用して移動するのだが)。だが、その移動には時間がかかるので、地球規模では充分に相殺できる許容範囲に収まる。
 しかし、そこに「効率性」が持ち込まれると話は変わってくる。行き過ぎた効率化は、自然の摂理を強引にねじ曲げることを忘れてはならない。例えばバブル崩壊とは、エントロピ-の減少が臨界点に達した時に弾ける自然現像と捉えるべきである。
 要するに、経済という限定的な指標だけを見ていては「持続可能社会」は永遠に実現できない。狭い視点ではなく、広い視野が必要だ。一見、何の関係もなさそうな自然科学などの知識も踏まえた「総合知・全体知」という視野が必要だ。

 また、行き過ぎた合理主義・効率主義は、人に「脳内回路のショ-トカット」を強要する。その結果、無駄と思えることは考えなくなる。決断が早く「頭の回転が速い」と思われている人も、実は資本主義に合わせて脳内回路をショ-トカットしているだけかもしれないのだ。
 要するに、自分に都合の良い情報だけ集めて理論武装している。世界観を狭め、単純化することで合理化・効率化が達成されている事実に気付いてほしい。それに気付かないから「確証バイアス」などに流されてしまう。こういう人は脳萎縮が進行し、認知症を発病しやすいと言われている。
 世界が多様であると認識できていれば、あらゆる可能性を総当たり戦的に並列思考的に考えるようになる。当然、総当たり戦なので結論が出るまでに時間がかかるが、それを「頭の回転が鈍い馬鹿」と決め付けるのはお門違いである。