パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

22.日本の財政赤字解消の道筋(日米のインフレ政策は民主的に見れば愚策)

 個人や法人には寿命があり、その寿命の範囲内での借金返済が不可能であると断定された時、破産に至る。が、政府には寿命がないので、各種国債(借金)の返済期限を守り、「国の所得」と債務残高の比率が大きくなり過ぎない限りは、国が破産することはない。
 国の所得とは「名目GDP」のこと。そして、名目GDPの成長率が公債残高の増加率を上回っていれば、実質利子率は減少し、国の収入に占める借金の割合が減るので、理論上いつかは借金が完済できるという理屈。

 洋の東西を問わず、借金額は「名目値」で評価される。物価と連動して自動的に借金(元本)が増減することはない(利子率が変わることはある)。貯蓄や負債(債権)のように、累積して積み上がっていく金額は、おおむね名目値で評価するのが普通だ。
 つまり、その時々の物価変動次第で、相対的に負債や貯蓄の価値も変動する。なので、政府が財政赤字を心配する時、気にするのは「名目GDP」の成長率だ。名目GDPの成長率が利子率を上回っていれば、財政赤字が相対的に目減りするからだ。

 現在の日本の財政は、それを見越した戦略をとっている。安倍政権が名目GDP 600兆円を目指し、インフレ率2%の目標(インフレ・タ-ゲット)を立てたのも、結局は財政赤字を意識しての財政健全化計画といえる。これを実現するには、何としてもデフレを脱却する必要があった。
 膨大な財政赤字を抱える日本だが、まず政府が目指したのはプライマリ-バランスの黒字化。プライマリ-バランスとは、国債の利払いや償還などの国債関連費を除いた歳出と、税収などの歳入との差を表す。歳出と歳入の差が黒字ならば、将来の展望にも希望が持てる訳だ。

 アベノミクス始動前の2013年時点では、財政のプライマリ-バランスは、債務対GDP比で 6.2%の赤字だった。これを2020年までに黒字化すると宣言。具体的には2015年 9月、安倍政権は 2020年までに名目GDPを 600兆円にすると定め、当時よりも 100兆円以上増やす目標を立てた。
 その目標達成のため、賃金上昇、物価上昇政策を実施。さらに海外からの旅行客(インバウンド)による需要増加キャンペ-ンを展開。インバウンドは、SNS・スマホ・キャッシュレスの普及がもたらした新手の消費形態だ。
 そして、デフレ・スパイラルから脱したことで、どうにか目標達成の見通しがたった。身も蓋もない言い方をするなら、これはインフレ税のお蔭だ。この勢いを追い風に、消費税を8%、10%と段階的に引き上げ、さらなる安定的税収増に繋げた。その締めくくりとして「東京オリンピック」を開催し、数値目標は達成されるはずだった。

 緩やかなインフレ基調路線を続けていれば、財政赤字の負債価値も相対的に減少するので、アベノミクスは鉄壁の経済政策のはずだった。が、新型コロナによって世界の価値観は一変。5年越しの先行投資の回収も怪しい状況となった。
 特にインバウンドに頼りすぎたのが余計に状況を悪化させた。外国の購買力に依存しすぎたため、外国の勢いが衰えた途端に日本経済も失速した。今後は、外国依存度を抑えての「日本経済の体質改善」が必要になる。

 よく考えれば、外国依存が大きくなればリスクも大きくなるのは明白だ。それでもインバウンドを推し進めたのは、資本主義が目先の利益を優先するために近視眼的になり易く、長期的視野で見れなくなるためだ。「土地バブル」と同じ失敗を「インバウンド・バブル」でも繰り返してしまった。
 それに、消費税増税社会保障費に充てるのが主目的なので、GDPの成長には全く貢献しない。GDP内訳での「税金の割合」が増えただけの話。税金は付加価値を削って確保されるので、どちらかと言えば経済成長の阻害要因なのだ。

 しかし政府は、今でもインフレ経済政策を継続するつもりだ。財政健全化計画は2025年に先延ばしとなった。はっきり言って、この政策は米国の真似に過ぎない。ドルという強力な基軸通貨を持つ米国の真似が日本でも通用する保証は全くない。
 それどころか、インフレ経済では「借金は得」になるのでハ-ドルが下がる分、余計に債務を膨張させるリスクがある。バブル時代でさえ、高度経済成長期の過大貸付を返済できなかった現実を思い出してほしい。都合の悪い話は隠匿され、表面化するのが遅れるのが常なのだ。

 そして、金融政策だけでは実体経済が変わることはない。金融政策は資本所得を増大させるので、それで名目GDPは成長する。が、実体経済を成長させるには産業の活性化が不可欠。実体経済の付加価値が増えない限り、経済成長は望めない。
 実際、コロナ禍の最中にありながら株高が続いているが、それが実体経済を牽引している事実はない。外国の経済回復は、莫大な政府支出(国民への給付金)が消費拡大に繋がったと捉えられていて、やはり株高の影響は少ない。

 結局、日本の実体経済の付加価値は全く上がっていない。だから市民の労働賃金もほとんど上がらず、むしろ「実質」賃金はインフレ経済のせいで下落誘因が強い。
 景気刺激策として政府が賃上げ圧力を強めていたので、かろうじて最低賃金は上昇してきたが、それは逆に雇用抑制を助長し、失業率が高止りする悪循環を生んでいる。国民生活を平和に導くには内需産業の強化が必要だが、インフレ経済はそれを骨抜きにする。

真面目に働くのが馬鹿らしくなるからだ。

 アベノミクス財政赤字縮小や資本所得増大には有利に働くが、労働所得者には厳しい政策であり、市民が有難がるほどの好策とは言えない。
 政府が主導する「成長戦略」が財政健全化のために必要なことは分かる。が、インフレ税に頼らないと借金が返せないというのは結局、債権者に対して何割かの債権放棄を迫っているのと同じであり、合法的な借金踏み倒しと言える。所詮、インフレで借金を帳消しにする愚策に過ぎない。

 時間を掛けることで債権者へ利益をもたらす一方、その代償として未来の国民(子供達)に長期間の痛みを押し付ける。インフレ政策には「国家の体裁」を保つ以外の長所はなく、外面を気にしたクダラナイ政策だと自分は思っている。
 それならば、全世界同時に「借金を一定割合チャラにする」部分的デフォルトを実行しても同じことにならないか? と思う訳。その方がむしろ潔いし時間の節約にもなる。コロナ禍で苦しむ市民を速やかに助けるなら、これは最善策だと思っている。
 本来なら時間をかけて微調整する経済状況を「前倒し」で、一瞬で実行する超法規的措置に踏み切る訳。政策発表と同時に債権は買い手が付かず値崩れすると思うが、世界のマネ-総量は実体経済から乖離した量になっているので、無用の上澄みと思って諦めてほしい訳。

 最大の問題は、この政策には全世界の協力が不可欠なところだが、今後は、どの国においても財政赤字が「持続可能社会」にとって最大の障壁となるのは自明だ。
 なので、今回の各国の財政出動は、持続可能社会の実現を遅らせる要因として重くのしかかる。だからこそ、全世界の協力が得られる可能性は充分にあると思っている。
 同時に「物価も強制引き下げ」すれば債権者の不満を抑える現実性もあり、経済バランスは保たれる。後は所得格差を是正するための調整が必要となる。

 日本が世界最大の赤字国となった背景には、頑なに資本主義を推進する米国に振り回された事情もある。日本は事実上「米国の属国」として、ずっと働かされてきた。その反動として「対米疲れ」が出てきている。ニュ-ディ-ル政策以降、ずっとインフレ経済を続けてきた米国の物価高・ドル安・株高基調もまた、日本の財政赤字同様に異常な状態だと、そろそろ誰かが言うべきだと思う。
 米国はかつて、ベトナム戦争での疲弊から「ドル・ショック」に踏み切った。今回の「コロナ・ショック」では、世界中が「金利が動かない現在の資本主義体制」に疲弊している。先進国の主要通貨の切り上げによる「物価の強制引き下げ」こそ、世界が望んでいる政策だと自分は思っている。

 物価・株式・債権・土地・低所得者以外の人件費、の価格を同率で値下げするだけで、世界の足並みは揃う。連帯を呼び掛ける知識人は多いが、これこそ究極の連帯だと思いませんか?
 これを「理想論」「空想的アイデア」で片付けるのは、富裕層のプロパガンダに乗せられた愚者の行いである。世界世論が高まれば、理想論は現実化する筈だ。

 借金総額が減少すれば、プライマリ-バランスの正常化もいっそう容易になる。そもそも、経済成長への明確なビジョンがあれば、プライマリ-バランスなど気にする必要はないと言う識者もいるのだ。
 さらに、元々借金が少ない国では、早々に人口減少など「右肩下がり」に適した経済政策に梶を切ることが可能となる。それは環境に優しく、持続可能社会の理想形となるだろう。

 政府による成長戦略は「ゴ-ルありき」の決まったレ-ルを走ることを強要する。これは全体主義・ノルマ主義を彷彿させ、市民に息苦しさ・生きづらさを与える。しかもそれは、先代の不始末を未来の子供達に押し付けることを意味する。
 そもそも、成長戦略が必須となった原因は、将来使うはずだった未来の収入を、既に使ってしまったことにある。借金とはそういうものだ。安易な人口予測に甘えて膨大な借金を抱えてしまったことで、返済のためのレ-ルの上でしか生きられなくなった。それが資本主義に生きる今の日本人の姿だ。