パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

MMT+死蔵ゲーム:『賃金UP企業への税制優遇』は、逆に格差拡大の悪循環を生む…

 岸田政権の『賃上げ政策』について書いてみる。ついでに MMT についても書いてみる。MMT に関する様々な混乱を簡潔に表現できたと思っているので、是非とも読んでみて。

 日本の中小企業の大半は、収支がプラマイゼロ近辺で経営している。法人税を元々払っていないのだから優遇税制もクソもあったもんじゃない。売り上げの大半は、設備投資と人件費に充当されている。売り上げはステークホルダー同士で綺麗に分配…それが中小企業の実体だ。要するに、皆で協力して生きている。

 現在の大企業は、持ち株会社(ホールディングス)が本社機能を有していて、利益を上げて法人税を払えるのは大半が持ち株会社だ。子会社は本社の内部留保を切り崩して貰えないと賃上げはキツイ。
 さらに中小企業は、元々カツカツ経営なので賃上げは困難だ。なぜなら、取引先(元請け)からの値下げ圧力が強いためだ。それがクリアできれば、この政策はインフレターゲットの一面を持っていると言える。

 で、持ち株会社の社員は元々高給取り。その社員をさらに賃上げして、その実績で法人税率が優遇されるのでは、これでは益々格差が拡大する。しかも法人税の税収も減ってしまう。これは結局、従来のトリクルダウン政策と全く変わらない。

 今まで、政府の税収減を補うために消費税増税を繰り返し、それによって低所得者がトバッチリを食ってきたのに、この税制優遇策では低所得者や中小企業への再分配には貢献しない。
 賃上げによる所得税の税収増が目的かと。これによって内部留保を吐き出させる狙いだと思うが、その効果も限定的と思われる。で、政府税収が増えなければ、また財務省が変な事を言い始めると思う。


 財務省赤字国債を『借金』と呼び、返済のためには増税が必要だと言うが、現在での税金は『マネーストックを一定に保つ装置』の役割の方が強い。その根拠が MMT な訳。MMT 自体は当たり前の理論だが、それを歪曲して飛躍論を煽る輩が居る…それが問題なのだ。よくある話が…

A)「社会保障費や公務員給与は、全部国債で賄えばいいじゃん」

B)「国が国債を発行するなら、その分を内部留保や配当金でごっそり貰って死蔵させたもん勝ちじゃね?」

…みたいな話。自国通貨での赤字国債のせいで国が破綻する事が無いのなら、A) B) みたいに考える人も現れる。通貨はその国の社会全体で共有すべき『共有財産』である。A) B) みたいな考え方は通貨の私物化に傾倒し、貨幣ルールを崩壊させてしまう…それが問題なのだ。

 A) は『急激なインフレ』になる。公務員給与だって実体経済で適正に『循環』させないと無駄なマネーストックで溢れる事になる。そのために国家がある程度の税収を取るのは理に適っている。
 グローバル経済で繋がっている現在では、一国のインフレは世界に波及してしまう。現在の世界的インフレはコレと同じだ。だから A) は問題がある。

 B) は、その逆で『デフレ』になってしまう。現在の日本は B) の状況だと自分は確信している。これが『株主資本主義』の正体だと考えている。
 デフレなのに財政規律とか言って、さらに消費税増税をして循環貨幣を減らしてしまったから日本は長期の不況になってしまった訳。無謀な増税は、公務員まで『死蔵ゲーム』に参加する危険性を示唆するものだ。

 MMT は普通の理論。A) B) のような極端な話を MMT と紐づけて語られるのが問題な訳。
 国債を発行して、それで金利が上昇するのは『金本位制』の縛りがあった時代の話。日本の赤字国債は大半が日本国内にあるので、ヘッジファンドの餌になる事もない。だから金利上昇する可能性は低い。しかし油断は禁物。新規国債は大丈夫でも、古い国債が海外流出するからだ。

 実際、日銀が2013年4月に量的緩和の規模拡大を決定した翌月、長期金利は 1% に達し、銀行が企業に融資を行う際の基準となる長期プライムレ-トが上昇した事があった。『歪曲 MMT 肯定論者?』は、これに言及していない。
 株式や債権などの金融市場は参加者の思惑で動く。その市場を金融政策だけで制御するのは不可能だ。現在のジャブジャブの金融緩和政策が、国債の海外流出リスクを高めている。コロナ禍での株高がトリクルダウンに貢献しなかった事実を重く受け止め、そろそろ金融引き締めを考えるべきだ。

 そういう意味で無尽蔵に国債を発行する訳にもいかない。財務省が心配すべきはこの点だが、それは金融政策との兼ね合いで解決すべき問題であり、直ちに財政規律論へ持っていくのは横暴だ。
 ただ、格付け会社にも問題はあると思う。日本の財政赤字を正しく評価する経験を、格付け会社自身も持ち合わせていない筈。ヘッジファンドはそういう所に付け込んでくる。


 生活困窮者に対する支援策として『兆円規模の財政出動』は必要だと思う。日本はデフレなので、それが原因で急激なインフレに振れるリスクは少ない。しかも世界全体がインフレへ移行しつつある。高い輸入品(特にエネルギー価格)が低所得者を苦しめているので尚更だ。

 さて、今回の自民党案の賃上げ政策では、今後の財源確保によって低所得者が割を食う可能性が高い。法人税率を優遇しても低所得者の賃上げには効果がないと思われる。『企業の内部留保の死蔵』が『高所得者の貯蓄の死蔵』にシフトするだけになると思われるからだ。

 政府の財源も気にするなら、やはり富裕層の所得税率を上げる必要がある。で、むしろ法人税率も上げて、その代わりに消費税減税を行い、低所得者の重税感を解消した方が社会全体に安心感を与えるし、循環経済にも貢献する。

 要するに循環経済の正常化には、累進課税の累進率を上げる以外に道は無い。経済学者・政治学者だけで議論するのは危険だ。『真理追究』に慣れている物理学者や数学者も交えて議論すれば、累進課税が重要という結論に達するのは自明だと考えている。

 低所得者にとっての消費税増税は、所得税増税と変わらない。なぜなら、低所得者は、収入の大半を消費に使わざるを得ないからだ。つまり低所得者は『所得の死蔵率』が元々低い。だからこそ低所得者は循環経済にとって重要で、だから低所得者をもっと増やすために増税が必要…これが財務省の考え方だと思っている。酷くない? これって完全に社会主義だよな。

 で、税制優遇案とセットの賃金上昇策は、格差縮小には貢献しないし、特に非正規労働者の救済策としては愚策だ。結局、大企業・富裕層優遇策にしか見えない。

 コロナ禍で経済弱者が困窮した事への反省から、富裕層から貧困層への再分配をしてくれないと社会は安定しない…なのに、その解決策が示されていない。いつの間にか「経済成長すればみんなハッピーになる」というトリクルダウン政策に戻ってしまっている。岸田総理、このままで本当にいいの?