パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

25.自治体の「企業囲い込み」が再分配システムを骨抜きにした

 格差を是正するための政策を「再分配政策」という。グロ-バル経済以前の閉鎖系の社会であれば、「累進課税」によって再分配政策は容易に実現できた。しかし、ビジネスがボ-ダ-レスに展開される今となっては、タックス・ヘイブンやネット取引など無数の逃げ道があり、分配システムの維持は容易ではなくなった。
 これには、大企業を誘致しようとやっきになる各自治体にも責任がある。営利企業と同じスタンスで利潤の「囲い込み」に走った結果、格差を是正するための再分配が骨抜きにされてしまったのだ。

 自治体は、大企業誘致によって生まれる巨額の経済効果を得る引き換えとして、法人税を低くしたり免除したりしてきた。その際たるものがタックス・ヘイブンだ。そして大企業を組み込んだ自治体の経済は成長し、いずれ安定期に入る。
 安定期の企業は一定の純利益を上げ続けるが、安い税金のお蔭で、株式配当内部留保に存分に回せる。ここで問題になるのは、純利益はその地域に還元されることがないということ。企業側の意志で、自由に投資に回せるため、これが格差拡大の始まりになる。

 つまり、法人税を割り引いた分が純利益に回されていると捉えることもできる。これに対処する合理的な方法は、企業が安定期に入る頃合を見計らって段階的に税率を上げていくことだが、現実には難しい。
 一度決まってしまったル-ルを覆すのは非常に困難だからだ。国境線や領土問題がその典型だ。囲い込みや国境分割案など、利害に関する対立は常に紛争の火種になっている。外国企業の誘致には国際問題に発展するナイ-ブな面もある。

 可能であれば、自治体自身が企業の株主になれば、純利益の一部を配当として受け取ることができる。しかし、自治体には株式の購入資金となる内部留保は存在しない。年度ごとに予算を使いきってしまうからだ。
 正確には、都市計画に基づく内部留保は存在しても、株式投資用の内部留保はない、と言い換えるべきか。住民税は住民に還元される使い方をされるべきで、株式投資に回すのは住民の抵抗が大きい。
 それに、法人税と配当の二重取り立てには企業も抵抗すると思う(どちらも純利益から支払われるので)。妥当な案としては、地域住民に株主になってもらうとか、そんなところか。そんな訳で、これからの自治体は企業誘致よりも「株主誘致」を重視する流れに向かうと予想できる。

 自治体の行動が再分配システムを骨抜きにした実例の中でも、特に利己的と思われるのが、米国ニュ-ジャ-ジ-州が施行した「会社法(州法)」だ。
 当時の米国では、ロックフェラ-が「トラスト契約」によって多数の会社を傘下に従える企業大集団を形成していた。これを危険視した連邦政府は「反トラスト法」を施行。これは日本の独禁法に該当する。
 だが、反トラスト法が施行されて半年も絶たないうちに、ニュ-ジャ-ジ-州で「法人が法人を買っても良い」という会社法を可決した。これは大企業の本社を州に呼び込み、それによって税収を増やそうと考えた州法だった。

 この州法は、会社の合併や乗っ取りを史上初めて合法化したもので、反トラスト法の抜け道として考えたとしか思えないものだ。ここから「巨大株式会社」の歴史が幕を開け、巨大資本(にも関わらず有限責任)の時代が始まった。
 この州法の登場がなければ、世界経済は今とは全く違ったものになっていたはずだが、もはや手遅れ。国や自治体が所得税法人税を上げられないのは、富裕層の海外移住や大企業本社の海外移転を阻止し、国内の空洞化を防ぐためだ。富の一極集中は、国家と対等な権力をもたらす程になっている。