パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

大海を知らない鮭の話…

 井の中の蛙大海を知らず。…有名な句だが、誰が詠んだのかは自分も知らない。ググったら荘子らしい… 今回は「井の中の蛙」より、もっと生々しい話をする。蛙(カエル)ではなく、鮭(サケ)の話。

 鮭という魚は川で生まれ、いずれ海に出て、繁殖のため再び川に戻ってくる。これはよく知られている話。しかし、全ての鮭が海に行く訳ではない。
 鮭は縄張り意識が強い魚で、川で生まれた鮭たちは、自身の生存をかけた縄張り争いを「狭い川の中」で繰り広げる。縄張り争いに勝った鮭は、一生その場所(川)で暮らし続ける。つまり縄張り争いの勝者は海には行かない。

 一方、縄張り争いに負けた鮭は棲む場所を追われ、最終的に海へ出る。つまり彼らが海へ行くのは「野生の本能」で決まっているからではなく、成り行きで仕方がなく海へ逃げただけの話。
 広大な海へ出た鮭を待ち受けるのは、ハイリスク・ハイリターンの世界。豊富な餌に有り付けると同時に、自分を捕食する敵もまた多い。そして、厳しい海の中で運良く生き延びた鮭だけが、繁殖のために生まれ故郷の川へ戻ってくる。

 元々は縄張り争いに負けて海へ逃げた鮭だったが、大海の荒波に揉まれた結果、ずっと川で暮らしてきた鮭よりも桁違いに大きく成長して戻ってくる。
 餌の少ない渓流で川魚として生きる鮭は、ヤマメやアユ程度の大きさにしかなれないが、大海を経験した鮭は 50cm 以上の巨体となって戻ってくる。
 棲みかを賭けた縄張り争いでは負けたが、繁殖ではメスを独占する強者となれる。その確信こそ、彼らが喜んで川を遡上するモチベーションになっているのかもしれない。


 上記の鮭の話だが、これは今のミャンマー情勢と非常に酷似している。ミャンマー国内を川、国外を海に例える訳。すると、軍事政権にとって国境とは「自分たちが好き勝手に武力行使できるボーダーライン」に過ぎない事が明白となる。

 つまりミャンマーの軍人というのは、そのほとんどが国外渡航の経験がない「井の中の蛙」であり「大海を知らない鮭」なのだ。武器を携行した外国人を入国許可する国など、どこにも存在しないからだ。

 外国へ行きたければ、武器を預けて「丸腰」にならなければ出国ゲートを通れない。しかし、ミャンマーの軍人が丸腰になったその瞬間、周囲にいる民間人の全てが彼の敵となって襲い掛かって来るかもしれない。
 なぜなら、ミャンマーの軍人は武力で民間人を脅迫してきたからだ。なので、ミャンマー国軍は常に武器を手放せない。武器を手放せないから国外渡航もできない。下品な言い方をすれば「丸腰では何もできないタ〇ナシ野郎」だ。

 ニュース配信が増えてくるにつれて、ミャンマー軍がどんな存在なのかが次第に明らかになってきた。軍の総司令官は「国の民主主義を軍が守ってきた」などという発言を繰り返している。
 が、少数民族を弾圧してきた歴史を振り返れば、やっている事は民主主義とは程遠い。民主主義の「多様性を尊重し、少数派を排除しない原則」を最初から逸脱している。

 多様性を軽視する国に行きたいと思う者はいない。それは差別されるために行くようなものだからだ。誰だって行った先で差別されたら嫌だろう。少数民族の弾圧を正当化するのは「差別の正当化」を意味するのだ。
 これは明らかに民主主義と矛盾している。こんな矛盾がまかり通っているのは、教育の標準化が軍に浸透していないためだ。つまり、権力者側が知識不足によって思考停止に陥っている訳。

 民主主義の実現には「教育」が重要だ。それも、偏りのない総合知(全体知)が特に重要となる。その教育内容は、多様性を重視する民主主義の広い視野を常に意識して策定される必要がある。
 資本主義や社会主義は、単純化された「視野の狭い価値観」である。単純化された価値観は、大衆を効率化へ導くには有利だが、そういう視点で教育が主導されると必ず偏りが生まれ、大衆を洗脳しようとする。

 洗脳された大衆は「自分の頭で考える力」を失い、過信・盲信・依存心によって簡単に流されてしまう。これが現代社会で確証バイアスや正常性バイアスを蔓延させる訳。
 日本の場合、戦後の民主教育は世界でも「かなりマトモな部類」にあると自分は思っている。が、社会に出た途端、行き過ぎた資本主義の洗礼を受けるため、教科書に書いてある事を「タテマエ」と考えて忘れてしまうのだ。

 さて。
 権力者は他者と向き合えない子供である。他人の痛みが分からない人間は、真の大人にはなれない。で、権力者は必ず「幼稚な王様」になってしまう。
 なぜなら、権力者は「社会規範の外側」に配置されるため、真っ当な教育を受ける機会を自ら逃してしまうからだ。そんな権力者を真っ当な人間に再教育するには、刑務所にぶち込んで「徹底的に教育する」しかないだろう。


 ところで。
 少数民族を弾圧する軍のやり方には賛同できないが、少数民族側もモロに「武装勢力」となっている。武装勢力側も戦争を起こせるような重武装をしていて、ミャンマーは確実に内戦状態になっている。
 これは誰かがミャンマーに武器弾薬を大量供給している事を示している。だから武器調達ルートの解明も重要となる。
 マスコミは、そろそろミャンマーの周辺国についても具体的な情報を出すべきだろう。それと、他人事のように軍を非難している英国の態度も気に入らない。植民地時代の「分断統治」の名残として、現ミャンマーの混乱があるのは明白だからだ。

 それにしても、国家を超越した組織である筈の国連が、ロシア・中国の常任理事国二国の拒否権によって人道危機に対する動きを封じられてしまっている。
 現時点では、国家を超越した「国連」のみが国家への干渉が可能な組織だというのに。ロシア・中国の行動は、国連憲章に照らし合わせて違反個所はないのだろうか…