パンデミック後の新世界を作るために (foussin’s blog)

(『見捨てられた世代』からの提言)

12.格差縮小にはGDP成長率(信用創造と乗数効果)に惑わされないことが重要

 自分がGDP成長率にこだわっても仕方がないと思うようになったのは、実際に体験したデフレ不況の「実感」を根拠にしている。「失われた20年」のデフレ不況のうち、最初の10年間は確かに厳しい時代だった。要するに、膨れあがる借金とその返済に10年を費やした。
 が、後半の時代、特に野田内閣(民主党政権)の時代は、少なくとも実体経済は安定化の兆しが見えていた。人件費の安さが逆に国際競争に有利に働いた面もあったと思う。そして、実体経済の安定は労働環境の改善に繋がった。
 借金さえ無ければ物価安のデフレは貯蓄に有利に働き、庶民にとって暮らし易い日常が取り戻せる。そのため、リアル産業側にはインフレ誘因は働かずにデフレは継続した。が、それは同時にGDPの低迷を意味する。

 最大の問題は、庶民が借金を返済した後も、国の借金が増え続けたこと。その理由として政府は「社会補償費の増大」を挙げているが、他にも別の理由があったと自分は考えている。
 それは、資本所得が停滞していたこと。デフレでは「待つ」のが金融資産を持つ富裕層の常識だから。しかも不良債権への反省から、必要以上に自己資本を溜め込んでおきながら「待ち」を決め込んだ。それこそが経済の循環不全=デフレを招き、財政赤字を増大させた元凶だったと思っている。

 その間、内部留保を少しずつ切り崩しながら労働者への賃金に充てるので、それが結果として格差縮小に寄与し、労働所得・労働分配率の改善に繋がった。
 内部留保の切り崩しが、資本所得から労働所得への再分配になり、それが格差を縮小させ、実体経済は活力を取り戻した。しかし、それは時間がかかり過ぎた。リストラをする前に、最初からそれをやっていればデフレ不況の長期化は避けられた筈だ。

 現在の日本の財政赤字は、もはや実体経済の活力だけでは健全化は望めない状況となっている。そこで、安倍政権はインフレ経済政策を推進することになった。
 GDPは「新たな生産価値=付加価値」を求める指標なので、GDPの決定要因となるのは生産に関わる経済主体の活動だ。で、生産を行う主な経済主体と言えば、それはもちろん「大企業」だ。
 中小企業の労働所得など、大企業の資本所得の前では微々たる存在だ。GDP成長率を向上させるには巨大資本の活性化が必須となるが、それは同時に格差拡大という副作用をもたらす。社会の富を際限なく吸い上げるからだ。

 好景気とは、国民の家計に余裕が生まれ、大勢が「欲しがり」始めたことを意味する。それが本来のGDPを向上させる。つまり需要がなければ生産(供給)も行われない。ここ数年の日本では、インバウンド需要によって実体経済が支えられた面が大きい。
 ただ、現在のGDPの成長には国際間の取引・競争が大きな比重を占める。特に金融資本の比重が異様に大きい。要するに、地球規模で見れば「資本の食い合い」を繰り返しているだけで、それが乗数効果によって経済成長しているように見えるだけに思える。

 乗数効果とは、例えば政府の景気対策として創られた「最初の需要」を発端に、次々と新たな需要が生み出される連鎖反応を言う。経済効果の算出に欠かせない概念だ。
 経済に乗数効果が現れる理由は、市場で流通されるマネ-ストック(貨幣供給量)の時間経過に伴う再分配が加算されるため。つまりストックが「フロ-」として扱われる。で、フロ-の集大成がGDPとなって現れる。循環経済が上手くいくことが好景気の条件と言える。

 ただ、地球規模での付加価値の総量は、金額に換算すれば成長しているが、物質量・労働量で見れば大きな変化はない。実体経済が低迷している現状を見れば、それは明白だ。
 現在のマネ-は、ネット上で瞬時に決済されるため、より早く乗数効果が表れる。しかし、現物商品や人の移動には「距離と時間が比例する物理法則」から逃れることはできない。この物理法則が実体経済の限界を規定する。そこに着目したのが金融業界とIT産業だ。
 物理法則に関連する「配送料」などを小売店(実体経済圏)に押し付け、派生コストを切り離そうとしている。これこそが実体経済とGDPの乖離を加速した原因だと自分は思っている。

 要するに今の「GDPの成長」は、実体経済の循環で達成されたものではなく、金融工学を駆使して生み出した「信用創造」であり、言わば仮空のマネ-である。そのマネ-で実体経済が生み出した商品(利益)を好き勝手に消費・投資しているのが今の富裕層の実態だと自分は考えている。
 実体経済から吸い上げた利益で「資本取引を繰り返す」ことでGDPの成長は達成されている。これは実体経済の循環不全を起こし格差拡大とインフレ(物不足)を助長する。もはや「国民の幸福度」とGDP成長率は比例しているとは言えない状況だ。

 現在は巨額の投資マネ-が有り余っているので企業実績に基づかない株式売買が増え、思惑(根拠のない信用)だけで株が買われ、相場を変動させる目的で売買が行われる。相場が動けば、そこに利鞘が発生する。そこには実体経済の付加価値は存在していないが、金融商品の付加価値としてGDPに計上される。
 こんなものをGDPに計上して良いのか非常に疑問を感じるが「市場取引された価値のみを計上する」のがGDP統計の基本原則。値段が付く付加価値なら何だって商品という訳で、金融市場も「資本を取引する立派な市場」と解釈され、GDPに計上される。

 国民生活の幸福・安定を重視するなら、GDPの成長率にこだわるより、実体経済の根幹を成す内需の安定化を重視すべきだ。内需重視の政策は「持続可能社会」の実現のためにも重要だ。世界中の国家が内需重視の経済政策に梶を切ってくれれば、世界は今よりもずっと平和になる。
 今の日本政府がGDP成長率にこだわり、インフレ経済を推し進めるのは資本主義大国「米国への配慮」と「巨額の財政赤字」が重くのしかかっているためだが、今後も経済成長が続く保証があるのなら「債務対GDP比」の割合だけ見ていれば良く、無理に財政赤字を縮小する必要はない。

 だが、資源に乏しく、人口減少など「右肩下がり要因」がある以上、日本がインフレ政策に頼らずに今後のGDPを成長させる手段はない。が、今後の持続可能社会の実現のためには、GDPの成長にブレ-キを掛ける省エネなどにも取り組む必要がある。
 その際、財政赤字が持続可能社会の実現を阻む最大の障害となる。そこで少しでも債務縮小を進めるため、インフレ経済政策を続ける以外に打つ手がないというのが本音だろう。が、この物価高政策は貧困国を窮地に追い込み、労働所得者にとっても絶望的な政策である。

 ただし、その絶望は日本だけの問題ではなく、先進国においても途上国においても噴出している世界共通の問題になりつつある。従来の経済格差は「先進国vs途上国」だけの問題だったが、今ではそれが先進国の国内においても顕著化している。
 経済格差が国内の問題になって初めて、先進国が途上国に対して行ってきた理不尽な行為に気付いた訳。鈍い、鈍すぎる。なので、この資本主義の矛盾を打開するには全世界が協調する必要がある。分断や紛争にかまけている場合ではない。